セレンゲティ・人と動物プロジェクト
2004年度活動報告(2004年6月−2005年5月)

プロジェクト責任者: 岩井雪乃

1.目的

 このプロジェクトは、タンザニアのセレンゲティ国立公園の周辺で、人と動物が共存できる社会づくりを目指して、主に人材育成に力を入れて活動しています。

 セレンゲティ国立公園は、100万頭のヌーが大移動することで世界的に有名です。壮大な景観と豊富な野生動物を楽しむために、年間30万人を超える観光客が世界中から訪れます。この国立公園は、ユネスコの世界遺産に登録されている人類の宝であると同時に、タンザニア政府にとっては外貨獲得源として国のドル箱でもあります。しかし、公園の存在は、地域住民の生活にさまざまな問題を生じさせています。観光利益のほとんどは外国人が経営する企業にもっていかれてしまい、地元には落ちてきません。村人は、車に乗って通り過ぎていく公園職員や観光客を別世界の人のように見ています。公園から出てきた動物たちは、畑を荒らしたり、家畜やたまたま出会った人間を襲ったりして日常生活を脅かします。公園として国に強制的に接収された土地の問題も、住民が納得しているとはいえません。現状は、「人と動物の共生」ではなく、動物と生きることを「強制」されています。野生動物が生息することのネガティブな側面ばかりが住民に押し付けられています。

 このような状況を打開していくためには、地元住民が意見を集約して、国や国立公園管理局、国際自然保護NGOなどと交渉しつつ、自分たちの生活を創意工夫して改善していくことが必要です。そのために、まず求められているのは、村および公園をとりまく現状を理解して行動できる人材です。セレプロでは、地域生活の変革を担っていく人材を育成するために、教育機会・研修機会に対して奨学金を給付しています。

2.2004年度奨学金支給実績

 今年度は、昨年度から支援している4人に対して、そのまま継続して奨学金を給付しました。奨学生の選考は、中学校以上の教育・研修の機会を獲得したものの、その費用の支払いが困難な家庭状況にある人を対象にしています。

表 2004年度奨学金支給実績
  奨学生氏名 性別 年齢 就学先 給付金額(US$) 円換算(1$=114円)
1 ニャマリワ・ジョン 16 イコマ中学校 200 22,800
2 エドワード・マチェゲ 22 自動車免許取得
英会話学校
400 45,600
3 マベンガ・ソスピーター 25 ダルエスサラーム大学 500 57,000
4 クレトス・ニャギタ 29 タリメ教員養成大学 850 96,900
  合計       1,950 222,300

3.奨学生の状況

 プロジェクト担当の岩井が2005年2月から3月の1ヶ月間現地に行って奨学生に会ってきました。みんなの状況を報告します。

(1)ニャマリワ・ジョン Nyamariwa John(女)17歳 イコマ中学校2年生

 昨年、ニャマリワは試験に落第し、留年してしまいました。タンザニアの制度では、4年制の中学校の2年生のときに全国共通進級試験があります。そこで合格しなければ留年し、翌年再び試験に挑戦しなければなりません。ニャマリワは、合格点の40点まで2点足らず、落第となりました。

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休日のニャマリワ(一番左)

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ニャマリワの学校と校長先生

 がっかりした私が彼女に理由を尋ねると、彼女の伯父が11月の試験の2日前に亡くなったことが原因だと言うのです(タンザニアの学校の新学期は1月のため、11月に進級試験がある)。彼女の母は離婚して、実家=伯父と祖母の家で生活しています。これまで伯父は、ニャマリワを含めた彼女の家族全員を、何かと世話してきてくれた人でした。その伯父の死がショックで、試験に集中できなかったというのです。

 気持ちはわかりますが、残念です。今年は、しっかり勉強して、余裕を持って合格してほしいものです。

(2)エドワード・マチェゲ Edward Machege(男)22歳 自動車免許取得・英会話学校

 エドワードは、昨年度、自動車免許のEクラスを取得しました。これは自家用車を運転できる免許です。彼が目指す旅行会社のドライバーになるには、商業車を運転できるCクラスの免許が必要です。2005年3月、エドワードは免許を取得することができました。

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ガレージでのエドワード

しかし・・・タンザニアの雇用状況は、免許証を持っていれば仕事が見つかるほど甘いものではありませんでした。ドライバーとしてどこかで仕事をした経験がなければ、なかなか会社に雇ってもらうことはできません。エドワードのような車のない人が経験をつみたい場合は、個人ドライバーとして雇ってくれる人を探すか、車を所有している人に賃貸料を払って車を貸りて白タクをやるぐらいしか道はないようです。タンザニアの町中を走っているタクシーも、多くの場合、車は運転手のものではなく借りており、車の所有者にあがりの一部を支払って営業しています。エドワードが経験をつむにはどうしたらいいか検討中です。

その一方、観光客相手のドライバーになるには、英語力が必要不可欠です。小学校しか出ていないエドワードは、ほとんど英語が話せません。そこで、3ヶ月コースの英会話学校に通うことにしました。6月に、第一段階のコースが終了します。

(3)マベンガ・ソスピーター Mabenga Sospeter(男)25歳 ダルエスサラーム大学 地理・環境学科 1年生

 マベンガは、2004年10月から大学2年生になりました。しかし、新学期が始まって間もない11月に、お父さんが亡くなってしまいました。父が病気になってからは、長男のマベンガが財産である家畜を管理して、弟妹の世話をしてきました(遠くはなれた大学にいるので、親戚の手を借りながらです)。これからは、ますます彼の双肩に家族の将来がかかってきます。大学で会ったときマベンガは、「実家のことを考えて眠れない夜がある」と話していました。マベンガからの手紙と写真を、2004年12月に「奨学生からの手紙」としてアフリック・ホームページに報告しましたが、その時の写真はお父さんが亡くなられて間もないときのもので、表情が非常に厳しくなっています。2005年2月に会った時には、だいぶ明るい顔になっていました。しかし、心労はこれからも続きます。

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大学でのマベンガ

 今年度は、Gurumeti Reserve Fund(ホテルが実施している基金)が学費を支援し、アフリックは学外でのフィールド実習の費用を支援しました。2006年10月からは最終学年がスタートです。彼は実家の村の近郊での就職を希望しています。国立公園管理局や観光ホテルに就職できるといいのですが。

 また、マベンガは、近隣の村々の同年代の若者とともに環境NGO、EDEREC(Elimu Kwanza Development Research and Environmental Conservation Center)を立ち上げました!地元の若い世代の中から、このような主体的な動きが生まれてくるとは頼もしい限りです!この団体は現在、政府への認可登録手続きを進めています。特に植生の劣化と村人の環境意識の向上に取り組もうとしています。岩井の職場である早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンターでは、EDERECと協働してプロジェクトを開始しています。

(参考http://www.waseda.jp/wavoc/wavocmenu/prject-taikenki/ecommunity-tanzania.htm

(4)クレトス・ニャギタ Cletus Nyagita(男)29歳 タリメ教員養成大学1年生

 クレトスは、教員養成大学の2年生になりました。この大学は、中学卒業者から入学が可能で、1年間学ぶと小学校の先生になることができます。近年、タンザニア政府は小学校教育に力を入れており、小学校の教室増築と教員の増加を進めています。タンザニアの中でも僻地であるセレンゲティ地域ですが、新しい小学校の教室がたくさん建っていました。政府の努力が現れています。

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クレトスとお母さん

 クレトスは高校を卒業しているため、さらに1年間学ぶと中学校の先生になることができます。今年1月からは2年生となって、継続して教育学を学んでいます。科目の中では教育心理学に熱心に取り組んでいます。教師に留まらない、より高いポジションを目指す彼は、人びとの心を理解し動かすことに興味があるそうです。昨年度は生徒会長に選ばれ、勉強以外の仕事で忙しくなってしまいました。遅刻や無断外出の監督など、他の生徒の生活指導までしていました。大学の学生は20歳代後半から30歳代のいい大人なので、まとめるのは一苦労だったそうです。

4.今後の展望

 ニャマリワの留年、エドワードの就職難・・・教育や研修を支援しても、それが結果につながるとは限らない、という壁に直面しています。そもそもタンザニアは人口の8割が農民で、その年の雨によって生活が左右されるのが基本です。安定して給料のもらえる就職口は非常に少なく狭き門です。定年まで勤められるのは公務員ぐらいでしょうか。企業や商売で働く人は、自分の渡世術を駆使してフォーマル・インフォーマルな仕事を渡り歩いていきます。比較的農地に余裕のあるセレンゲティ地域では、実家に帰って農民になることも選択肢の一つです。奨学生が希望する道が開けるよう支援していますが、タンザニアの社会経済状況の中では容易なことではありません。

 このプロジェクトでは、うまくいっている部分だけではなくて、生じている問題も率直に報告することによって、みなさんにアフリカの現実をより具体的に伝えていきたいと思っています。試行錯誤のプロジェクトですが、どうぞご支援をよろしくお願いします。

更新日: 2005-08-20 作成者: AFRIC Africa