アフリカ便り—天候編

曇天の楽しみ (タンザニア)

近藤 史

「あそこはいつ通っても曇っていて嫌になるね。」タンザニア南部高地に位置するンジョンベ県は、そこを通過する旅行者たちから“どんより暗くて寒々しい”という印象を持たれることが多い。この地域はなだらかに起伏する丘陵地帯で、標高が2,000m前後ある。一年を通じて雲や霧が多く、涼しい高原性の気候はタンザニアのなかではとても珍しい。劇的な季節変化に乏しいから、たまに通りかかる人はいつも変り映えがしないと感じるのだろう。しかし実際に住んでみると、人びとの生活は季節ごとの彩りに溢れている。

いつも曇っていると言われるこの地域だが、降水量を調べると、一年は乾季(5〜10月)と雨季(11〜4月)にはっきりと分かれていることがわかる。他の地域と決定的に違うのは、雨がほとんど降らない乾季のあいだでも、すっきり晴れる日は滅多にないという点だ。乾季は夜間の冷え込みが厳しく、毎朝霧がたちこめて、6・7月には霜がおりることもある。太陽がのぼるにつれて霧ははれるが、灰色の曇り空から射す日光は頼りない。このため、昼間も気温はなかなか上がらない。そして太陽が傾けば、からっ風が吹きつける。それでも日射しが強くなる正午から3時くらいまでのあいだは、谷間の湿地につくる乾季畑で働いていると、汗ばんでくることがある。そんな時は、急に雲がはれて空が明るくなっていることに気がつく。

日射不足と乾燥で寒くなるこの季節は、日中もセーターが必需品で、ダウンジャケットやコートを着ている人も多い。タンザニア国内は冬物衣類の需要が少なく、村でも比較的きれいな古着が手に入るため、若者はオシャレな服選びに余念がない。また農作業に忙しい時期だが、朝10時頃までは寒くて屋外での作業に向かない。このため女性たちは、かまどのそばで美しい模様のカゴ編みに精をだす。その姿は、日本の冬の“夜なべ仕事”を彷彿とさせる。こうした乾季の生活習慣は、ンジョンベならではだ。

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パピルスに似たカヤツリグサ科植物の花茎を用いてカゴを編む女性。
赤い染料で染めた花茎を編み込んで模様をつける。左の少女が持っているのは完成品。

比較的に青空がみられるのは、むしろ雨期の前半(11〜2月)だ。この時期の雨は断続的に降るので、その間の晴天時に丘陵斜面につくる雨季畑の作業をてきぱきとすすめる。ただし、抜けるような青空が見られる日は要注意だ。夕方から夜にかけて入道雲がわき、すさまじい雷光・雷鳴とともにバケツをひっくりかえしたような大雨が降る。落雷も頻繁にあり、そのせいで町に数台設置された公衆電話は1年も経たないうちに全て壊れてしまった。雨期の後半(3〜4月)になると、日本の梅雨によく似た季節へと移り変わる。重い雲がたれこめて、霧雨状の雨が連日降り続けるのである。昨日も雨、一昨日も雨、今日もまた雨。朝から晩まで飽きることなくふり続ける雨に閉じこめられて、畑の調査が思うように進まずうんざりするのは私だけ。人びとは気まぐれに止む雨の気配に敏感で、限られた晴れ間をぬって畑作業を上手にこなしている。

そして雨季は、ンジョンベ名物のウランジと呼ばれるお酒が飲めるようになる、おいしい季節でもある。ウランジは、糖分を含む竹の樹液をあつめて、自然発酵させてつくる。乾季のあいだは成長を止めていた竹が地中にしみ込んだ雨をすってタケノコを伸ばしはじめる1月頃から、再び成長を止める乾季中旬の8月頃まで、ウランジは毎日とれる。長雨で外に出られない雨季の後半、人々はウランジを飲んでおしゃべりに興じる。旅行者が曇り空と鬱陶しい雨に悩まされるこの時期、ンジョンベで生活する人々は、一年で最ものんびりした時間を穏やかな笑顔で楽しんでいる。

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タケノコの先端をナイフで薄く削り、切り口からしみでる樹液を竹筒に受けて、
その中で自然発酵させるとウランジができる。

更新日: 2006-04-04, 作成者: AFRIC Africa