アフリカ便り— 結婚

イモワーズ(婚約)とエバ(結婚)の間(カメルーン)

大石 高典

2002年からカメルーンに通って、今年で7年目になる。私の調査地N村(カメルーン東南部、ムルンドゥ郡)周辺の住人であるバクエレ人もバカ人も、適齢期は男性では割礼(ベカ)を終えた15-6歳から、女性では初潮が終わった13-14歳くらい(推定年齢)からだから、初めて会った時にまだほんのこどもだった子らが、次々と大きくなり、この数年の間に子を産み、親の世帯とは独立した結婚生活をエンジョイするようになっている。こどもを持ち、世帯を構える(独立した小屋や家をもつ)と男はたくましく、女性も貫禄が出てくる。いろいろあるにしても、「結婚」は人を成長させるのだろう。

日本人は見かけが若く見えるというが、私も最初の数年間は村でも15歳程度の年齢だと思われていたようだが、今ではTonTon(フランス語で“オジサン”の意味)をつけて呼ばれるようになってしまった。調査地に向かい、村で友人たちに新しい配偶者やこどもを紹介されるたびに、私だけ成長がストップしたまま取り残されていくようで、なんだか少しさびしいような複雑な気持ちになる。

N村のバクエレの同世代で、結婚していない男性は、私のほかにもう1人。彼の名はヤンゴン。しかし彼には、すでにたくさんの「婚約者」がいる。

「結婚する」ことをバクエレ語でエバ(2になる)という。婚資を花嫁の家族に受け取ってもらえて、「結婚」成立となるが、それまでの道のりは長い。

一緒に住んだり、性的関係を結んでいてもイモワーズ(婚約関係)という通い婚の状況が続く。結婚までに、誰しも結婚前に3度か4度はイモワーズの関係を持つのが普通で、ここからぐっと5歩くらい踏み出す感覚で、「結婚」がある。エバには至らず、イモワーズで終わる恋がほとんどである。

イモワーズから結婚への段階で、大切なのは関係を結びながら、その関係をうまく隠すことである。二人の関係が早くから大っぴらになってしまうと、津波のようなゴシップが村から村へと伝染し、目に見えぬライバルを刺激したり、気の早い相手親族からものねだり要求などの邪魔が入って、うまくいかなくなることが多い。

最近、独身の私を見かねて、村の「先輩」たちから結婚のためのアドバイスをいろいろもらうようになった。彼らのアドバイスにおいて、大体次のことは共通している。

  • ・相手をよく訪ねること、
  • ・相手が自分をよく愛していることを確かめること、
  • ・相手が求めているのが、なにかをよく見極めること、
  • ・こどもをつくること。

日本では最近まであまりよい目で見られなかった「できちゃった婚」だが、カメルーンではそのほうが普通である。出産と結婚の順番よりも、新しいこどもが生まれてくること自体のほうが大事なことだし、祝福される。逆に、こどもが生まれないと、夫か妻の間の社会関係に何か問題があるのではないかと考えられてしまう。

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仲良し夫婦

伝統的な結婚では、花嫁は、ブングと呼ばわれるゴザを持参する。また、嫁いでから数か月間は、ドーガという特別な呼び方をされ、身体を植物染料で赤く塗ったまま過ごすことになっている。結婚したら、男は新しい自給畑をつくらなければならない。

結婚には、男女双方の親族をはじめとする周辺の人々が、2人の関係を認めるかどうかが問題なのであるが、そのために、男性は相手の女性と信頼関係をつくるだけではなく、相手方の親族に礼を尽くさねばならない。

バクエレ社会では、「男はしゃべりが肝心だ。」と言われるが、プレゼントやカネの要求をはじめとする物的なものから、畑の開墾の手伝い、居候の受け入れ、などなどの様々な要求を、巧みにさばきつつ、全て受け入れるのではない能力が必要とされる。バクエレには、一夫多妻をする者も多いが、妻が増えると、その分だけ畑が増えてゆく。親戚づきあいも倍加しておカネのやり繰りも大変になる。「妻が増えると白髪も増える」と言う中年のおじさんがいたが、まるで中小企業の経営者のようである。

ヤンゴンは、カカオ畑でも川で漁をするときも、私の調査の手伝いをするときも愚直に仕事をする大の働き者だが、ンゴロンゴロと呼ばれる蒸留酒を飲むと正体がなくなる。彼のお母さんも大酒飲みで、一昨年、泥酔したまま焚火の上で寝てしまい、それがもとで亡くなった。遺言は、「酒を飲みすぎないように」という一人息子への忠告だったというが、今のところそれは守られていない。ヤンゴンに調査の手伝いをお願いして、お礼を渡すときには大分タイミングを注意しているのだが、いずれにせよ彼はどこからかお酒を見つけてきて、10分もたたぬ間にできあがって誰彼となく振る舞う。彼が、婚約から結婚に移行できないのは、おそらくこのお酒と気前良さのせいであろう。

私の身の回りの日本の男性独身貴族からは「結婚は恋愛の墓場だ」という意見もまま聞くが、バクエレの男たちにとっては、結婚は面倒だが大切なものである。もちろん、イモワーズでずっと過ごす者もいることだし、ヤンゴンと私のどちらが先に結婚できるかもわからないが、いずれにせよ恋愛と結婚の経験が豊富なバクエレたちは私の人生の師であることは間違いない。

更新日: 2009-06-08, 作成者: AFRIC Africa