アフリカ便り—「耕す」

耕さないことの恵み(タンザニア)

八塚 春名

くわで穴をあけ、その穴に種を数粒ほうりこみ、足で土をかぶせる。タンザニア中央部の半乾燥地帯で焼畑移動耕作を続けてきたサンダウェという人たちが、雨季が始まった直後に、一番に始める農作業だ。村の大部分が砂土であるこの地域にとって、種をまく前に耕して土を柔らかくしなくても、雨水はどんどんと地中にしみ込んでいく。サンダウェはこうして、乾燥に強いトウジンビエを砂土で栽培してきた。彼らにいわせると、「トウジンビエは砂土がすき」だそうだ。

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種まきのようす。くわで穴をあけ、土をかぶせたところが、ぽこぽこと列をなしている

こうして耕起をせずに種をまき、その後、雑草が生えてきたら、草の生えた地表をくわでひっぺがす。これが、彼ら流の「除草」だ。耕起をしないことと関係があるのかないのか、彼らの畑には雑草がよく生える。一般的に雑草は、せっかく種をまいた作物の生育を邪魔するもので、除去すべきものだと考えられている。でも、それが食べられるものだったらどうだろう?それでもかまわずに除草をするだろうか?彼らの畑には、そんな食べられる、しかもおいしい雑草が、たくさん生えているのだ。

サンダウェが利用する雑草には、いくつか種類があり、それらは、雨季に入る直前からちらほらと畑に芽を出す。すると、待っていました!とばかりに、農作業を始めるにはまだ早い畑に採集に出向く。そして、雨季のあいだじゅう、どんどん発芽し大きく成長していく雑草を採り続け、食べ続ける。雑草は、彼らも私も大好きなおかずへと姿を変えて、食卓を彩る。

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おいしい雑草がはびこる様子。一番多いのはゴマ科のCeratotheca sesamoides

  

村に、ブルーノという私がよく知るおじいさんがいる。彼は、砂土ではなくて粘土含有量の多い谷地に、広大な畑をもっている、村のなかでも数少ない人だ。そして、彼は自分の畑について「砂土じゃないから、水がちゃんとしみ込んでいくためには、種をまく前に、牛やトラクタを使って耕起しないとだめ」だと語る。しかし広大な畑をくわで耕やすことは難しく、実際には2年に一度、ウシをもつ人やトラクタをもつ教会にお金を払って、ウシやトラクタで耕起をしてもらっている。そうしないと、土壌の表面がカチカチになってしまうが、耕起さえすれば、砂土よりも高い収量が望めるうえに、トウジンビエではなく、トウモロコシなど他の種類の作物を栽培することができる。ブルーノはこうして粘土質の土壌と付き合いながら、広大な畑を維持し、今では、村でも有数の高収量をあげる人物になった。

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ブルーノの畑

そんなブルーノの畑にも、雑草は生える。しかし、大きな畑のどこにでも生えるわけじゃなさそうだ。2006年に私が食べられる雑草の生育量を調べたとき、ちいさな雑草がたくさん生えていた場所があった。あまりにちいさいものがたくさんあったため、調べるのが大変で苦労したことから、よく覚えている。しかし、2011年に再訪したとき、同じ場所にはひとつも食べられる雑草がなかった。ブルーノの奥さんにきいてみると「違う場所にはえているわ、今年はちょっとしかないけど」と、別の場所を教えてくれたので、そこに行ってみると、たしかに少しだけあった。でも、全体的に雑草は少なかった。なぜかと問う私に、ブルーノの奥さんはこういった。「よくわからないけど、たぶんトラクタで耕起したからかしら。」彼らが食用に使っている雑草は、ときに人の手が繁殖を手伝ってあげるという、少し変わった植物で、どこにでも、勝手にどんどん生えてくるものではない。人びとが自分たちに有用な雑草との上手な付き合い方を習得したからこそ、畑に維持することができている。雑草と付き合うということは、そう簡単なことではなく、普段、私たちは、どうしたら雑草が生えないのかと悩み、生えてしまった雑草を抜くのに苦労をする。たまの休みを、庭や畑の雑草との格闘に費やしてしまう人も少なくないはずだ。しかし、その雑草が私たちの食卓を彩る有用なものであれば、どうすればたくさん生え、維持できるのかといった、逆の付き合い方を考えなければいけない。

タンザニアでは今、キリモ・クワンザ (Kilimo kwanza) 、つまり「農業第一」という農業政策がおこなわれ、農業の近代化、商業化がすすめられている。サンダウェが暮らす地方村までその波はまだ到達していないものの、雑草と共存する耕起をしない農耕は、こうしたキリモ・クワンザとどうかかわっていくのだろうか。近代的な農業機械を導入し、雑草との戦いに勝ち、作物の収量をあげる、それだけが、理想的な農業じゃないはずだ。

粘土質土壌の土地に広大な畑をもつブルーノは、トラクタを使って耕起した畑でとれるトウモロコシの固練粥がいちばん好きだ。でもある夜ブルーノは、「トウモロコシの固練り粥のおかずには、雑草料理がもっともふさわしい」と、奥さんが料理した雑草を食べながら、私に熱く語ってくれた。

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おいしい雑草料理を食べさせてくれるブルーノの奥さん

更新日: 2011-11-07, 作成者: AFRIC Africa