アフリカ便り― アルファベット

マサイがオリンピック・メダリストを夢見る日(ケニア)《Olympic/オリンピック/英語》

目黒 紀夫

わたしの調査地で開催されているマサイ・オリンピック。記念すべき第1回(2012年)は見逃してしまったけれど、2014年12月に開かれた第2回大会は一部始終を見ることができた! しかも、その裏側についての話を関係者に聞くこともできた。

そもそも、マサイ・オリンピックとはケニア南部のアンボセリ国立公園の周辺で、2012年から隔年で開催されている陸上競技大会だ。本家のオリンピックとは関係なく、「スポーツをつうじた動物保護」をスローガンに掲げて開かれている。主催しているのは、アンボセリ地域でエコロッジを経営している白人とその友人で世界的に有名な野生動物写真家(白人)が設立したNGOである。協賛団体には、あの『ナショナルジオグラフィック』を発行しているナショナルジオグラフィック協会も名前を連ねている。また、ロンドン・オリンピック(2012年)の800メートル走で金メダルを獲得したマサイの陸上選手、ディヴィッド・ルディシャも特別ゲストとして来場していた。

そんなマサイ・オリンピックの目的は、マサイの青年たちが「男らしさ」を証明するために伝統的におこなってきたライオン狩猟をやめさせることだ。「男らしさ」を競う新しい機会としてマサイ・オリンピックという陸上競技会を開いて賞金を用意し、それとあわせて動物保護の大切さを教育することで、伝統文化としての狩猟を放棄させようというのだ。

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開会式に整列する「赤チーム」の青年たち

マサイ・オリンピックの種目は、男子が200メートル走、800メートル走、 5000メートル走、槍投げ、棍棒投げ、高跳び。女子が100メートル走と1500メートル走。このうち女子はエキシビションのあつかいであって中心は男子だ。伝統的にアンボセリ地域のマサイの青年は、4つの集落に分かれて暮らしてきた。マサイ・オリンピックはその4集落の対抗戦で、各集落から選抜された選手には赤、黄、緑、水色の色分けされたユニフォームが配られた。各種目の1位の選手が所属する集落には3点、2位と3位の選手の集落にはそれぞれ2点と1点が加えられる。その点数の合計がもっとも多い集落が総合優勝で、賞品としてトロフィーと改良品種の種牛が贈られる。また、各種目の1位から3位には金・銀・銅のメダルと賞金(1位:約230ドル、2位:約170ドル、3位:約120ドル)が授与され、800メートル走と5000メートル走の金メダリストは2015年のニューヨーク・シティ・マラソンにも招待される。

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マサイ・オリンピック式の「高跳び」。頭がひもにふれればその高さをクリアしたことになる。

当日は数百人の観衆が集まった。そのなかには各集落の関係者だけでなく地元に暮らす他民族や観光客・外国人、それに首都のナイロビから噂を聞きつけて駆けつけたメディアもいた。競技に参加した青年は全部で160人(40人×4集落)。競技後に疲れはてて地面に倒れこむ選手が続出したが、マサイの女子はそんな彼らに声援を送り、長老たちはそのパフォーマンスをあれこれ訳知り顔に評していた。そして、わたしもふくめて観光客や外国人、メディア関係者はいい写真を撮ろうと躍起になっていた。普段であれば、マサイの写真を撮るには本人の許可と撮影料が必要になる。しかし、この日は何枚でも選手の写真を撮ることが許されていた。

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槍投げの様子。写真撮影をしたい観光客や外国人、メディア関係者には最前列が確保されていた。

当日の様子を見るかぎり、マサイ・オリンピックは大成功のようだった。そして、早ければ当日のうちに、遅くても翌日にはマサイ・オリンピックのニュースが全世界を駆けめぐった。日本でも新聞やテレビでその様子が伝えられたのだが、そのなかではマサイが動物保護の意義を理解し、「ハンターからアスリートへ」と変身したといわれていた。ただ、現地の様子はそれほど単純ではない。たしかに青年たちは全力で競い合い、自分たちの集落が優勝すると大喜びをして歌い踊り跳ねていた。メダルを獲得した青年は誇らしげにしていた。しかし、総合優勝をした集落の青年たちは後日、主催NGOのもとを訪れて総合優勝の証しであるトロフィーを買い取るよう要求していた。彼らいわく「このカップでは紅茶も飲めやしない」。

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総合優勝トロフィーを掲げる青年たち。

すでに第2回マサイ・オリンピックから半年が経過し、その公式ウェブサイトでは第3回(2016年開催予定)のスポンサーが募集されている。おそらく第3回も青年たちは喜び勇んで参加するだろう。およそ運動とは縁のなさそうなわたしの調査助手でさえ、第2回を観戦しながら「参加すればわたしだってメダルを獲れるのに」と悔しがっていた。個人的にその意見には首をかしげてしまうのだけれども、多くの青年がマサイ・オリンピックに関心を寄せていることはまちがいがない。ただ、それがはたして主催者の意図するような動物保護のためなのか、それとも単純に競い合うのが楽しいとか賞金が欲しいというからなのかというと、どうも後者のような気がする。よそ者が何を考えているにしても、それが楽しいものであれば参加したいし、参加するからにはもちろん本気でやる。それで金をもらえるのであれば喜んでもらうし、そうしてもらった賞品が気にくわなければストレートに要求をする。 たしかにマサイ・オリンピックはその「表」を見るだけでも充分に楽しめる。でも、その「裏」まで見えてくると、またちがったふうに楽しめるはずだ。

更新日: 2015-09-01, 作成者: AFRIC Africa