アフリカ便り— Afric Africa 10周年

いつも誰かを笑顔にできる人 (南アフリカ共和国)《chakela/訪ねる/ソト語》

河野 明佳

6年前、初めて現在のフィールドで調査を行ったとき、通訳として手伝ってくれたのがチャケラだった。いつもにやけてる、いかにもチャラ男っぽいお兄ちゃん。でも、ホストマザーが「信頼できる」と紹介してくれた人。フィールドで出会った、忘れられない人の一人である。

チャケラと行った初めての調査は散々だった。そもそも私自身が、自分がやっている調査の意味がよくわかっていなかったし、自信もなかった。それにくわえて、チャケラとの調査は思い通りにいかないことがたくさんあった。調査初日からの熱烈なプロポーズに加えて、毎朝、調査拠点へ向かう途中で、かならず友達の家に寄らされ、小一時間おしゃべりに興じなければならなかった。お昼ご飯を買うところにつれていって、とお願いしたら飲み屋に連れて行かれた。聞き取り調査の対象者には、タバコをぷかぷかふかした若い男と「中国人」の若い女の組み合わせに、目を白黒された。インタビューは自分が予想していたように進まないし、通訳兼アシスタントであるチャケラも自由気まますぎて、私は一体何をしているんだろう・・と夜になると一人夜空を見上げて途方に暮れる毎日だった。

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写真1:調査のお昼休憩のはずが、なぜか飲み屋でビリヤード・・・

でも、このチャケラというお兄ちゃん、まったく憎めないのだ。それどころか、私は彼が大好きなのである。とろけるような、にやにや顔・・彼にぴったりの表現。あのにやけ顔を前にしては、何があっても本気で怒れないのだ。

「チャケラって訪ねるっていう意味でしょ?どうしてチャケラは、チャケラって呼ばれているの?」いろんな人に聞いたけれど、いまいちわからない。当の本人の答えはこうだ。「わかんないけど、チャケラっていうのはいつも誰かを笑顔にする人っていう意味だと思う」

どうして「訪ねる」という言葉が「いつも誰かを笑顔にする人」を指す名前になりえるのか、その時はよくわからなかった。でも、少しずつフィールドの様子が見えてくると、このチャケラという単語が頻繁に会話に出てくることに気付いた。「○○が訪ねてきたの」「いつ私を訪ねてくれるの?」道で出会って挨拶を交わすだけではなく、家を訪ねることが彼らにとってとても大切なことがわかってきた。約束をする必要はない。どこかへ行く途中、近くを通るときに、家に寄って、挨拶をし、お茶を飲み、近況報告をしあう。そんなことがとても大事で、相手の存在を大切に思っている証でもあることがわかった。だから誰かを訪ねることは、誰かを笑顔にすることができる。そのように考えると、彼はコミュニティにおいて、まさにそんな存在であった。いつも笑顔で、冗談をいい、人が好きで、ふらふら〜とあちこちに赴いては、人と笑いあうことに時間を惜しまない人だった。

初めての調査では、いらいらが募り、文句を言ったり、不機嫌になりがちだった私も、彼の笑顔にはいつも負けてしまい、最後はいつも笑って別れていた。チャケラは、やっぱりチャケラなんだ・・と、名前の意味に気づいたときにとても納得したものである。彼が引っ越してしまったこともあって調査でお世話になることはそれ以降なかったけれど、フィールドに入るたびに、一番に会いたい友人となった。

今年、彼は亡くなった。最後に会ったのは去年の8月、病気でとても弱っていた。その後回復したと聞いていたので、安心していたのだけれど、突然容体が急変したそうだ。私は南アフリカでの長期滞在を始めたばかりで、新しい拠点に腰を落ち着け、そろそろ彼にも会いに行こうかと考えていた矢先のことであった。

まだまだ、これからたくさん時間を一緒に過ごせると思っていた。前年、彼の家族と彼をめぐってちょっとした誤解が生じ、まだそれも解決できていなかった。チャケラは、亡くなる前日、私に会いに、私のホストの家にやってきていたそうだ。どうしてすぐ会いにいかなかったんだろう。とてもショックで、私はお葬式までの二週間、泣き暮れていた。葬儀当日、やり場のない悲しみと後悔で、自分がおかしくなってしまうのではないかと思った。でもチャケラは、お葬式でも「チャケラ」だった。

葬儀場に着き、葬儀のプログラムをもらった私は、思わず吹き出してしまった。表紙には、彼の生まれた年が。

「同い年じゃん!!!」

6年前。初めて会ったとき、「21歳だ」と自己紹介していた彼。当時24歳だった私が「じゃあ私の方が少し年上だね」と言ったら、あわてて「いや!今のは冗談!26歳だよ」と訂正していたっけ。去年の誕生日の時も、私より二つ年上なことを強調していたのに。

最後まで楽しいウソで笑わせてくれた。「もう誤解のことなんて気にするなよ。さやかは友達なんだからさ」と、チャケラがあのにやにや顔でこちらを見ている気がした。いつも冗談ばっかりいっていて、ふらふらしてばかり、お酒とたばこが大好きで。本当にどうしようもないやつだけど、みんなから愛されている。それがチャケラだったんだろうと思う。

チャケラ、フィールドで初めての友達になってくれて、そしていつも一番の友達でいてくれて、ありがとう。いつまでも大好きだからね!

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写真2:左から二番目がチャケラ

更新日: 2015-1-31, 作成者: AFRIC Africa