『アフリカ地域研究と農村開発』掛谷誠・伊谷樹一(編)

紹介:近藤 史

2013年の暮れも押し迫ったある日、この本の執筆者のひとりとして書籍紹介の草稿を練っていた私のもとに、編者の掛谷誠さんの訃報が舞い込んだ。突然の知らせに呆然とし、なにを書いても掛谷さんの思い出があふれるばかりで、一度は筆を置いてしまった。いまも正直なところ、何をどうまとめればよいのか迷ったままなのだが、このまま夏を迎えると夕立によせて掛谷さんの雷が落ちてきそうなので、かなり私的な文章になってしまうが、掛谷さんの思い出とともにこの本を紹介することをご容赦いただきたい。

「本書は、基礎的なアフリカ地域研究と、農村開発に挑んだ実践経験を統合した研究の成果である。」序章の冒頭を飾る一文は、この本の内容を紹介するものであると同時に、掛谷さんの研究と教育を総括するものとしても当てはまる。日本におけるアフリカ地域研究、とりわけ農耕民と農村地域を対象とする研究分野の草分けである掛谷さんが、同僚や弟子たちとともに、「タンザニアとザンビアの農村地域の生活に深くコミットして、それぞれの地域発展の実態を解明する地域研究と連携しつつ、地域がもつ潜在力に根ざした『アフリカ型農村開発』の実践の可能性を追求してきた」共同研究の集大成がこの本だ。

アフリカに暮らす人々は、その生業や生活形態から、狩猟採集民、牧畜民、農耕民、都市民の4つに大別される。なかでもアフリカの人口に占める割合が最も高い農耕民を扱った研究は豊富にあるが、それゆえに、かえって一人ひとりの研究者の興味関心も多岐にわたり、研究分野全体としては散漫な印象になりがちだと思う。そうしたなかで、この本は、ある程度絞られた地域の農村を対象としたインテンシブな調査や実践の成果にもとづいて、地域の諸相を集約し、多様性のなかからひとつの「アフリカ的発展」の方向性を追求するとともに、それを支援する「アフリカ型農村開発」のあり方を見いだそうと模索した、意欲的な論文集だと思う。

この本はまた、もうひとりの編者である伊谷樹一さんをはじめとして、農学のバックグラウンドをもつ執筆者が多いことも特徴だ。奥付の執筆者紹介からは分からない場合もあるのでここに名前を列挙すると、伊谷、勝俣、加藤、神田、黒崎、近藤、田村、樋口、山根、山本(五十音順、敬称省略)と、実に15人中10人が大学や大学院で農学を修めた。したがって、多くの章は、農学的な視点を糸口に、農村地域の発展を総合的に捉えようと試みている

このように書くと、難解な農学用語が氾濫して読みにくい、あるいは農業技術偏重で人文社会的な記述はうすっぺらいのではと敬遠されそうだが、その心配は無用だろう。農学ではなく地域研究の書として発表するのだから、畑や森で起こっている現象を農学的な分析手法を用いて実証的に解析し記述するときも、農学用語には平易な説明が加えられるべきだという、掛谷さんのストイックな方針が一貫している。一方で、聞き取りや参与観察にもとづいて農業をめぐる知識や慣習、社会経済について論考するときには、たとえば「伝統」「平等」「認識」といった言葉を安易につかった途端に、もっともらしい言葉で説明した気になるなと徹底的に問い詰められた。丁寧かつ明確な答えを返せなければ、もういちどフィールドワークのやり直しだ。こうした掛谷さんの厳しくも温かい指導のもと、人文社会系の共同研究者とも議論を重ねることで、地域の農業の展開は、平面的な技術論にとどまらず、人びとの生活や農村社会の文脈の中に位置づけて多角的に論述することが可能になった。

それぞれの執筆者が得意分野を生かしながら分野横断のフィールドワークに挑み、それを組み合わせることによって、地域発展の実態や「アフリカ型農村開発」の可能性を重層的に描きだしたこの本は、異分野の研究者のコラボレーションによる単なる学際的研究とは一線を画している。学問分野にはこだわらず、アフリカの農業や農村の発展に関心をもつ多くの人に読んでいただきたい。

目次

●アフリックのメンバーが執筆を担当した章
第2章(近藤史)、第6章(黒崎龍悟・荒木美奈子)

基本情報

出版社:京都大学学術出版会
定価:5,076円(税込)
発行:2011年 2月
A5判/520頁
ISBN:9784876989898

更新日: 2014-06-01, 作成者: AFRIC Africa