『動物のいのち』 ジョン・マクスウェル・クッツェー=著 森祐希子・尾関周二=訳

おすすめ:安田章人

『恥辱』の紹介(http://afric-africa.vis.ne.jp/books/books030.htm)にもあったように、クッツェーは、1940年に南アフリカ共和国で生まれたノーベル文学賞者です。タイトル『動物のいのち』からも想像できるように、本書は、人間と動物のかかわり、とりわけ人間による動物の利用について書かれています。ピーター・シンガーやトム・レーガン、マーク・ベコフなどの著書を読んだことがある人や、食肉の倫理について関心がある人は、「動物の権利」や「動物の解放」、「ベジタリアン」、「食肉の工場生産」などのキーワードを頭に浮かべることでしょう。

しかし、小説家であるクッツェーが書いたこの本は、ほかの倫理学者や哲学者のものとは、少しテイストが違います。本書は、政治哲学者エイミー・ガットマンによる導入部にはじまり、1997年と98年にクッツェーが行った講演が続きます。講演といっても、エリザベス・コステロという架空の作家を登場させた二部構成のフィクションです。そこでは、「動物を食べることと、ナチスのホロコーストは、同類である」と主張するベジタリアンの作家エリザベス・コステロと、ノンベジタリアンの息子一家などとの人間関係について描かれています。最後に、「動物のいのち」をテーマにしたクッツェーのフィクションの講演内容に対して、4人の学者が感想や意見を出すという構成となっています。4人の学者とは、宗教史学者ウェンディ・ドニガー、英文学者マージョリー・ガーバー、人間生命倫理学者ピーター・シンガー、文化人類学・動物学者のバーバラ・スマッツです。

本書は、現代において「動物のいのち」は、製品のように「工場」で生産され、消費されている事に対する自省と懐疑を我々に促します。しかし、本書はそれだけではなく、文芸詳論家のガーバーがリフレクションで答えているように、「文学の価値とは何か」、「フィクションにはどれだけの力があるのか」ということを問いかけています。そして、「動物のいのち」の扱いを通して、人間同士の関係についても言及されています。

動物の命と権利、文学・フィクションの可能性、理性と感受性。さまざまなテーマについて、読み手を刺激してくれます。是非、ご一読ください。

出版社:大月書店
発行:2003年11月

更新日: 2013-09-29, 作成者: AFRIC Africa