『アフリカの民話:ティンガティンガ・アートの故郷、タンザニアを中心に』 島岡由美子 文・写真/モハメッド・チャリンダ 絵

紹介:大門 碧

「ハポ ザマニザカレ※(=むかしむかしあるところに)
心臓とひげがおりました。」(p7)

アフリカ大陸の東海岸に位置する島の中、タンザニア連合共和国の領内であるザンジバルに、20年以上住み続けてきた島岡由美子氏。彼女がザンジバルをはじめとするタンザニア各地で集めた民話の中から22篇が編まれたこの本。その第一話『心臓とひげ』のドキュンとこちらのハートを射抜かれる、この始まり。

「心臓もひげも貧乏で、いつも腹をすかせておりました。」(p7)

そしてばったり出会ってしまった心臓とひげ。さて、何が始まる・・・!?

全22篇が語られた後、島岡氏による各話の解釈やその背景の説明が添えられている。そこでザンジバルを中心とする東アフリカの料理、民族衣装や歴史などを学べる上に、島岡氏が民話を採集した時の語り手や聞き手の様子が描かれているところも魅力的だ。楽しそうに笑う子どもたちが浮かんできたら、思わずだれかに話して聞かせたくなるはず。すべての物語が、次のような言葉で締めくくられているのも興味深い。

「今日の話は、これでおしまい。気に入ったら持ってきな。いらなきゃ海に捨てとくれ。」

読みながら、話の意図がわからず首をかしげてしまっても、この言葉にたどり着くと、「おもしろいと思ったら心に留めて、そうでなかったら無理になにかを学ぼうと考えなくたっていいのだ」と気づき、ふっと力が抜ける。おそらく、民話に出てくるエピソードや表現を楽しむだけで十分なのだ。

—— たとえば、猿夫婦の家にごちそうに呼ばれた亀夫婦。しかしながら、料理は高いテーブルの上にあって背の低い亀夫婦には届かない。「亀の夫婦は、なんとか、届くところはないかと、テーブルのまわりを、ぐるぐるぐるぐる回りました。ぐるぐるぐるぐる。ぐるぐる、ぐるぐる」(『サルと亀の友情が終わった日』p91より)。そして怒って帰ってしまう亀夫婦。このぐるぐるしている様子が、なんとも愛らしい。

—— たとえば、高いヤシの木のてっぺんまで登ってそのヤシの実を取ってこい、という難題を掲げて、自分の娘を貧乏な男と結婚させまいとしていた両親。しかし結局11人目の男が成功してしまう。娘の両親は「(貧乏な男を)好きになれなかったのですが、死んだ方がよかったのにという言葉は胸に隠して、しかたなく娘と結婚させ、しかたなくつきあいながら暮らしたそうです」(『ヤシの木に登った11人の息子』p112より)。どれだけこの両親は貧乏な男がいやだったんだろう・・・と、きれいごとだけでは済まない人間の性(さが)についつい笑ってしまう。

さらにこの民話集を楽しいものにしているのは、ティンガティンガ・アートで描かれた色彩鮮やかな挿絵だ。モハメッド・チャリンダ氏の描く絵は、民話を読み進める読者が描く物語のイメージをさわやかに裏切っていく。怖い話をポップ調に仕上げたり、ぎょっとする話をさらにぎょぎょっと目を剥かせるものにしたり。ひとつひとつの挿絵をそのまま絵葉書として売り出してほしいくらいだ。冒頭にあげた第一話『心臓とひげ』の挿絵もインパクト大。ここに描かれた「心臓」と「ひげ」に出会ったら、日本の「ゆるキャラ」たちは走って逃げ出しそうだ。そして「心臓」は、通りかかった人間に向かってこう叫ぶのだ。

「今、私は、ひげに追われています。ひげに見つかると私は食われてしまうのです。」(p10)

うーん、シュール。

※ハポ ザマニザカレ・・・ザンジバルをはじめとするタンザニア各地、ケニアなど東アフリカで話されているスワヒリ語で「むかしむかしあるところに」の意味。

更新日: 2013-01-08, 作成者: AFRIC Africa