『神の刻印(上・下)』  グラハム・ハンコック=著/田中真知=訳

紹介:山野香織


エチオピアでは1月になるとティムカットというキリスト教の祭りがおこなわれる。その祭りの際、一年に一度だけ、各教会に安置されているタボット、すなわち契約のアークのレプリカが、公の場にさらされることになる。しかし、本物の契約のアークはいったいどこに安置されているのだろうか。

次のような伝説がある。エチオピアの伝承をまとめた書物『ケブラナガスト』によると、紀元前10世紀ごろ、エチオピア一帯を治めていたシバ女王がイスラエルを旅した際、イスラエルのソロモン王とのあいだに息子メネリック(初代エチオピア皇帝)をもうけた。成長したメネリックはやがてソロモン王に会いにエルサレムに赴くが、ソロモン王の神殿に安置されていた「契約のアーク(聖櫃)」を盗み出し、エチオピアに持ち帰ってしまったようだ。現在そのアークは、エチオピアの古代都市アクスムにある教会に安置されているという。

エチオピアでひろく信じられているこの伝説をもとに、著者は「エチオピアにアークが存在する」という仮説をたてる。アークとは、旧約聖書の「出エジプト記」に登場する聖櫃(せいひつ)のことである。預言者モーセは、エジプトで奴隷の身として扱われていたイスラエルの民を率いてエジプトを脱出する道中で、神から十戒を授かる。その十戒が書かれた石板をおさめた箱が「契約のアーク(聖櫃)」である。誰も手に触れることが許されない"黄金に包まれた"アーク。炎や光を放ち、町を荒廃させる力をもつといわれるアーク。そのアークに関する記述が、旧約聖書のある時点でぱたっとなくなっているというのだ。

この、突如消えたアークの謎を解明するため、著者は古文書や聖書の記述からアークが消えた年代をしぼり、自ら赴いたヨーロッパ、イスラエル、エジプト、そしてエチオピアでの情報をもとに約3000年もの歴史を刻んだアークの足跡を追う。

本書は、上下巻あわせて約800ページにのぼるノンフィクションである。聖書やキリスト教に馴染みのうすい方にはやや難解かもしれないが、エチオピアの歴史や政治状況はもちろん、中東とアフリカ大陸をまたいで複雑にからみあう宗教や民族を知るうえで、本書を読む価値は十分にある。また、上巻・最終章におけるティムカット祭の恍惚とした空間の描写には引き込まれるものがあり、下巻におけるアーク追求のクライマックスでは、映画を観ているような緊迫感が伝わってくる。

なお、1981年にアメリカで公開された映画『インディ・ジョーンズ シリーズ』の第1作、『レイダース/失われたアーク』では、アメリカ考古学者らによる秘宝アークの争奪戦が繰り広げられる。アークを視覚的にとらえるために、『神の刻印』の序章としてこの映画を観賞してみるのもいいかもしれない。

出版社:凱風社
発行:1996年9月

[上巻]
421頁
ISBN 978-4773620085

[下巻]
396頁
ISBN 978-4773620092

更新日: 2012-08-15, 作成者: AFRIC Africa